「恋歌」 朝井まかて

2013年8月21日 第1刷発行
発行所 講談社

著者 1959年、大阪府生まれ。
この作品は昨日発表された第150回直木賞受賞作品。

イメージ 1




 「樋口一葉の師匠」が枕詞として「師の君」といわれ、幕末から明治の激動の時代に生きた歌人中島歌子(う多)の恋物語
 
 江戸、池田屋水戸藩の御家中が逗留する旅館であった。幕末で尊王攘夷が吹き荒れる中池田屋のひとり娘登世は水戸藩泊り客の林中佐衛門以徳(もちのり)に心ひかれる。
困難を乗り越えて水戸に輿入れしたのだが、以徳とは離ればなれの生活が続く。そのころ水戸藩では天狗党、諸生党と二分の内紛が続き、互いに憎しみ合っていた。

 内紛で夫も含め大事な人を失い、江戸に逃れやがて歌に生きる生活になる。歌子は歌人として名をあげてから、様々な相手との醜聞を立てられ、己の欲情のままに生き、数多の浮名を流したが、夫への恋情は死ぬまで尽きることがなかった。

 悪鬼のごとき弾圧を受けた市川三佐衛門(諸生党)の娘が澄が女中として歌子のもとにやってきた、澄が落とした袱紗を偶然拾った歌子は袱紗の裏面隅に縫いとりの紋を見つけた、三寄横見菊、有栖川宮家の紋だった。

 弾圧を受けた天狗党と弾圧をした諸生党の力関係が逆転し、後に弾圧を受けた市川の娘澄(市川登世)は思いを持って歌子のもとにやってきたのだ。

 歌子はいつまでも互いに憎み合う水戸を憂い手記と遺書をしたためた。
 半生を綴った手記を読んだ澄は三男庸を歌子と養子縁組させたうえ歌子の葬儀の喪主とし、歌子の思い「水戸への鎮魂」といたした。