「灰色の北壁」 真保裕一

2005年3月17日第1刷発行
発行所 講談社

本書は「黒部の羆」「灰色の北壁」「雪の慰霊碑」の三編が収められている。
本書の題名の「灰色の北壁」は新田次郎賞を受賞。

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三編とも山岳小説で、さすが新田次郎賞を受賞しただけあって素晴らしい作品です。特に受賞作はミステリー小説の性格も兼ね備え短編でありながら読み応えのある物語です。

「黒部の羆」
山岳警備隊を辞めて山小屋の主人になった「黒部の羆」こと樋沼は小屋閉めの日に雪の劔に登って行った二人の学生が気になって、しばらくの間小屋に留まることにした。そこに、山岳警備隊から救助の要請が無線で入電した。学生が遭難したところはかって自分が学生であった頃遭難しかけて救助されたところだった。遭難のふたりのライバル心と二人の遭難時の心の動きがリアルに表現されている。
 樋沼に助けられた学生の一人は、山岳家帯の任務として山に戻ってきて二代目「黒部の羆」とよばれるようになり、遭難者の救助活動を担うことになる。


「灰色の北壁」
 五千メートルから八千メートルまでの垂直の氷と岩壁ヒマラヤにあるカスール・ベーラの北壁を単独登攀により制したのは刈谷修。しかし刈谷の登攀成功には疑惑がかけられていた。
 ホワイトタワーとよばれるカスール・ベーラを世界で初めて制したのは御田村良弘で南東稜から登攀している。御田村が登頂した時に撮った写真と刈谷が頂上で撮った写真があまりにも酷似していることから疑惑が生まれたのだった。
 果たして刈谷は登頂していたのか、その謎を解き明かすべく、主人公の作家が隊長として御田村の息子が隊員として再び北壁に刈谷の足跡を見つけに挑むことになった。

「雪の慰霊碑」
 坂入慎作は残雪の北笠山に挑んでいた。そこは3年前息子の譲が二人の後輩とともに遭難したところであった。譲の婚約者だった岡上多映子が坂入の自宅を訪ねると家の異常な雰囲気を感じて譲の従弟で山岳部の先輩でもあった野々垣に相談した。異常な雰囲気を察した二人は北笠山に向かう。
 死に場所を求めて山に入ったと思われた叔父の真の気持ちは何だったのか。甥の野々垣が多映子に抱いていた感情、息子の婚約者であった多映子が慎作に抱き出した感情を息子の亡くなったこの場所に、息子に語りかける必要があって来たのではないかと思った。